2015年10月26日

598)国際アンデルセン賞受賞ホジェル・メロさんの絵本『はね』


 ちひろ美術館東京で8月5日から開催されていた、2014年国際アンデルセン賞受賞画家ホジェル・メロさんの原画展「旅する芸術家 ホジェル・メロ展」が昨日10月25日(日)で終了しました。こちらの会場では、たくさんの方にマイティブックの新刊『はね』を購入いただきありがたく思います。

 ホジェル・メロさんは、2014年の国際アンデルセン賞を日本の上橋菜穂子さんと受賞したブラジルの画家です。そして、2016年のアストリッド・リンドグレーン賞にもノミネートされている国際的な画家ですが、日本ではこれまで、邦訳絵本がなく馴染みの薄い画家だと思います。
 でも、その豊かな色彩で描かれる個性的な作品は、まさにVIVA!ブラジル。そのメロさんの初邦訳絵本『はね』を今年8月31日にマイティブックから発売しました。8月31日は私の誕生半世紀記念のお誕生。自分で自分にご褒美!です。

 実はメロさんとの出会いは、今は休刊中の世界の児童文学雑誌「ブックバード」の掲載写真ミスでした。大変失礼なことに、別人の写真をメロさんのコラムに掲載してしまったのです。(似ている外国人しかもモノクロ写真は非常に判別しずらい、と少し言い訳しておきます・・・) その時メロさんは、スペインで行われた2010年IBBY世界大会で、国際アンデルセン賞にノミネートされていたすごい人で、慌ててしまいました。

 私もスペインの世界大会に参加していたので、その会場でアメリカの「ブックバード」編集者と3人で「ごめんなさい」と謝ると、メロさんは大丈夫だよと笑いながら、「Nobody die!(誰も。死なないよ)」とユーモアたっぷりな回答で場を和ませてくれたのです。メロさんとの交流はそれから始まったのですが、まさか彼の初邦訳絵本を本を私が発行するとはその時は思ってもいませんでした。

 しかし2012年に思わぬところで、新しいメロさんの新作絵本の情報が入ってきます。それは、中国の曹文軒先生のお話が絵本になる!ということで、しかもイラストはブラジルのホジェル・メロ!とのこと。なんてこったい!

 これにも不思議なご縁がありました。私はJBBY(日本国際図書評議会)の広報誌の編集委員をもう8年近く担当しているのですが、その初期の頃、翻訳家の故・中尾明さんに編集委員で大変お世話になりました。日中児童文学美術交流センター会長を務められ、中国文学に精通し、中国の作家や文学について非常に興味深い作品をたくさん教えていただきました。

 その中尾さんから、日本で開催された「日中児童文学シンポジウム2007」の原稿をJBBY広報誌に寄せていただいたとき、そこに曹文軒先生が中国代表で参加されていたのです。ハリーポッターについて日本と中国で議論をしたという内容ですが、曹先生は「ハリー・ポッター」に批判的だったそうです。そして中尾さんから、「彼の書く物語は骨があっていいんですよ」と幾度となく聞かされ、『サンサン』(てらいんく)など曹先生の作品をたくさん知ることができました。曹先生の作品はいくつか日本で邦訳版が出ていましたし、それからは中国やボローニャのブックフェアで機会があれば曹先生の作品を気にかけていました。 

 あれから6年、中国の出版社から「今度曹文軒先生の面白い本が出るんだ」と、2013年のボローニャブックフェアで教えてもらいました。それが『はね』、イラストはホジェル・メロさんでした! まだ構成段階のラフ画でしたし、しかも私は中国語が読めませんから、それがどんな内容かは分かりませんでした。でも、なんだかすごい、、、。中国の人気作家とブラジルの人気作家の文化的な違いから生まれる、新しい作品作りに意欲的に取り組む中国の出版社をうらやましく思いました。

 「なんてこったい!!」と二人のコラボ絵本が誕生することを知り、もう「よ・み・た・い!」、それしか、ありません。英語のテキストをもらい、これは日本語でもイケる!と感じました。しかし、マイティブックのような小さな出版社ではなんだか両巨匠に申し訳ないのと、できれば広く流通させる可能性のある出版社で出せないかと、知り合いの編集者に相談したものの、今の中国と日本では正反対で革新的な絵本をアグレッシブに出したいところはありませんでした。多分うちも出版社だったので「そんなにいいなら、実験は自分のところでやってみたら?」と思われたのかもしれません。逆であれば、私もそうだなあ、、と思います。

 ということで、本格的な出版交渉をマイティブックとして始めました。イタリアやアメリカの本もそうですが、うちは版権取引のエージェントを利用せず契約書作りから自分でやっています。中国の契約は、判型の変更などで少し大変でしたが、やはりよい本を自分で作るという作業を思うと楽しくてたまりませんでした。

 メロさんには、この私の出版計画は伝えていませんでした。なぜなら、途中でNGになった場合、気を使わせてしまうと思ったからです。メロさんは、本当にそういう人です。 そして、特に問題もなく、契約書のやりとりがほぼ完了した、2014年春。ボローニャブックフェアで、これまた思わぬことが起こります。なんとメロさん国際アンデルセン賞画家賞の受賞が確定したのです。しかも同時受賞が日本の上橋菜穂子さん。この時ほどボローニャブックフェアに不参加だったことを後悔したことはありませんでしたが、本当の授賞式は9月のメキシコIBBY大会で、メキシコまでの旅費や大会参加費は結構な金額でしたが、これはもう、お金の問題など躊躇せず、はりきって行くしかありませんでした!(でここに、もうひとつの奇跡 まはら三桃さんとの再会もありましたが、これはまた別の機会に)

 話は前後しますが、メロさんの国際アンデルセン賞受賞が決まる前、安曇野ちひろ美術館での同年5月開催のメロさんの初日本個展が決まっていました。メロさんは、その個展を見るため日本訪問を決めていました。その訪問時に、「日本で『はね』の出版が決まったよ」と嬉しそうに言っていましたので、「どこの出版社?」と私がしらばっくれて聞くと「…マイティブック? これキミコのところ?!」と、グレートなサプライズで盛り上がりました。
この時は、まだメロさんスケジュールの余裕があったので、あちこちの学校や浮世絵師さんの自宅などいろいろと出かけました。でもまさか、国際アンデルセン賞画家とあちこち出かけるチャンスに恵まれるなんて思ってもみませんでした。本当にラッキーで貴重な経験でした。

 しかし、ここからが本当に、本当に、大変なことのはじまりでした。まずは、翻訳をどうするかです。
「翻訳者は児童文学者でなければならない」、ブックバードの初代編集長百々佑利子先生が常におっしゃっていた通り、曹文軒先生のメタファーを読み取り、それを子どもに伝えることができる言葉が必要です。そういう意味で、翻訳家探しは本当に大変でした。上海に住む旧友にも声掛けするなど、翻訳という視点だけではなく、言葉の表現を追求できる人探しが、大変で時間がかかりました。

 そんなとき、シューっと頭をよぎった方が一人。「そうだ、児童書作家の濱野京子さんは中国語が出来るっ!」、以前インタビューをさせていただいた時の記憶がフラッシュバックしました。濱野さんの文章は私も大変評価しています。でも濱野さんにとって翻訳は執筆とは少し違うだろうし、忙しいスケジュールで受けていただけるだろうか、濱野さんはとても責任感があり、慎重な方で、いい加減な仕事は受けてくれないことは知っています。でも、濱野さんであれば、曹先生の世界観がちゃんと伝わる言葉になると確信しました。そして、濱野さんに原稿を送り承諾をいただいたときは本当にうれしかったです。

 そして、もうひとつ課題がありました。それは、私の絵本編集の経験不足です。出版の仕事はもう27年ほど続けていますが、もともとのキャリアは雑誌や一般書です。絵本の会社を立ち上げてから、他社の絵本を手掛けてはいましたが、作り方も視点も各社バラバラで、自分の核になるようなものが育っていませんでした。もちろん、それぞれに良いところがありたくさん勉強もさせてもらったのですが、やはり相手となる編集部の作業をフォローするという立場ですから、その中で生まれる私の疑問は解決されることはありません。いろいろと独学で勉強はしても、ここが「ほぼ一人会社」のつらいところで、どこか自己満足の世界でした。

 これは『はね』だけでなく、その前年に出した『ニン どんなときも』で痛絶に「まだまだ分かっていないな」と感じたことでした。やはり、どこかで雑誌編集者的な小手先の面白さで場面や言葉を作ってしまうところもあります。『ニン どんなときも』も『はね』も、そういうことで、読者に訴求できるとうな単純なお話しではありませんでした。

 でも、そこでも神様は私の見方だったんですね。元福音館書店の田中秀治さんが、『ニン』に引き続き、『はね』の編集指南役を引き受けて下さいました。 会社が狭いので、隣の座・高円寺の2階で、濱野京子さん。田中秀治さん、私の3人で、数回ゲラの読み合わせを数回行いました。周りは何だと思っていたでしょうか。(『ニン』、も訳者の竹内より子さんと同様にやってましたが・・・)

 濱野さんと田中さんと、『はね』を読むのは誰だということも議論しました。これは絵本だけれど、ある程度物事が分かる歳でなければ理解できないお話であると、ちいさな子どもが拾い読みするような漢字のルビはふりませんでした。しかし、それは読者として小さな子どもを排除するのではなく、メロさんの絵に感じてもらう、または大人と一緒に曹文軒先生の物語を味わってもらうと、翻訳の土台となる言葉使いのコンセプトを固めました。ルビをふらないことに一番躊躇していたのが私ですが、出版してみると小さい子ども向けではないと主張することで、むしろ「自信もって子どもに手渡せる絵本」になったことは間違いありません。

 『はね』は、こんな私がマイティブックを設立してからの、本当にいろんなつながりが集約してできた絵本です。
あとは、日本の子どもたちに届けることが私の役目ですよね。ちひろ美術館の展覧会後のプロモーションなどを考えなければなりません。 どなかた、この『はね』のプロモーションとコラボレーションしたい方がいれば、どこでもで出かけます。『はね』の世界を共感する仲間を増やしていきたいです。

長々と書いてしまいましたが、本当に美しくてよい絵本です。 ぜひ、手にとってみてください。クリスマスプレゼントにも何卒よろしくお願い申し上げます。 

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Posted by 株式会社マイティブック    松井紀美子 at 17:16│Comments(0)マイティブックについて
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